みなさん、こんにちは!
この世界には数えきれないほどのオーケストラがあり、プロからユースオーケストラ、アマチュアオーケストラまで様々です。
オーケストラ奏者を目指している学生や音楽家にとってプロオーケストラでの演奏経験はとても貴重なものですが、大きな編成を要するプログラム・団員さんの病欠や仕事依頼がないと経験を積みたくても中々機会に恵まれないのも事実です。
そういう経験機会があまりない若手音楽家に経験を積む場所としておすすめしたいのが夏休みの間に開催されるマスタークラスやフェスティバルオーケストラやユースオーケストラです。
日本で有名なものといえば、小澤征爾音楽塾だったり、バーンスタインが創立したパシフィックミュージックフェスティバル(通称PMF)、ドイツではユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニーなどがあります。
オーディションで選ばれたメンバーが有名講師陣のもとレッスンなどの指導を受け、演奏会や演奏ツアーを通し音楽家として成長できる貴重な体験です。
今回は、そんな数あるうちの一つ、アジアの若手音楽家を対象とした2020年に活動30周年を迎えたアジアユースオーケストラについて書いていきます。
目次
Asian Youth Orchestra アジアユースオーケストラ
アジアユースオーケストラ(通称AYO)は、世界的有名ヴァイオリニストであったユーディ・メニューイン(敬称略)と上海音楽院で教鞭を持ち、アジアの音楽発展に長年携わってきたリチャード・パンチャス(敬称略)の二人によってアジア初のプレプロフェッショナルオーケストラとして設立されました。
毎年アジア各地で行われる厳しいオーディションに合格した約100名が、香港にて3週間のリハーサルキャンプ、アメリカ・ヨーロッパなどから来る講師陣の指導を受け、国際的に活躍する著名な指揮者やソリストとともに3週間の演奏ツアーを行い、一夏限りのオーケストラとして活動を行っています。
メンバーは、日本のみならず、中国・香港・台湾・韓国・インドネシア・マレーシア・シンガポール・フィリピン・タイ・ベトナムの11カ国・地域から選出された才能豊かな17歳から29歳までの若手音楽家で構成され、選ばれたメンバーは登録費のみ支払うことによって、それ以外のAYO参加に伴う費用(ツアー中の旅行費・滞在費用など)は参加者が支払う必要はなく企業などの寄付などによって賄われています。そして、講師陣には、ボルティモア交響楽団・ボストン交響楽団・アトランタ交響楽団・イタリアミラノスカラ座など世界で活躍する音楽家が集まり、毎日彼らからの指導を受けれます。
首席指揮者に、ジョセフ・バスティアン(元バイエルン放送響バストロンボーン奏者で現在は指揮者としても大活躍している)、名誉指揮者にセルジュ・コミッショナー、ソリストとしてヨーヨーマ、ミーシャ・マイスキー、ワン・ジャン、ギドン・クレーメル、ギル・シャハム、諏訪内晶子など世界的著名な音楽家と共に多数の演奏会を行っています。
1990年に創設者の一人ユーディ・メニューインの指揮のもと第1回目演奏会が行われ、これまでにアジア・ヨーロッパ・アメリカ・オーストラリアで307回の公演を行い100万人もの観客を魅了してきました。
発足のきっかけは、創設者・音楽監督・教育者としてだけでなく、AYOの資金調達など様々才能を持っていた故リチャードパンチャスが半世紀に及ぶアジアでの音楽教育の中、生徒から「どうすれば海外留学できるのか」という質問を受けたことから始まります。
(2020年創設者であり、アジアの音楽家教育に多大な功績を残したリチャードパンチャスが他界しました。天国でも私たちのことを今までのように見守り、音楽と共におられることを心より願っています…。)
アジアの才能ある音楽家ほど、欧米に留学しても母国に戻らないことを知っていたパンチャスは、「アジアの音楽家がアジアで学び、何をできるか示せる舞台を作れないか」と考え、頭に浮かんだのがアジアの若手音楽家が集まって演奏するアジアユースオーケストラでした。
1990年の初コンサート以来アジアの音楽発展に深く関わってきたAYOは、1996年ベトナムにて50年ぶりの国際的オーケストラとして、1997年には香港と北京で行われた香港返還式にて作曲家タン・ドュンの「交響曲1997」をチェロ奏者ヨーヨーマとともに世界初演を行いました。
アジアのみならず、アメリカ・ホワイトハウス、国連保部、ニューヨーク、アムステルダム、ベルリン、ウィーン、シドーなど欧米でも数々の演奏をしています。
これまでの活動の成果が認められ、2010年高松宮殿下記念世界文化賞若手芸術家激励賞を受賞、2015年日経アジア賞を受賞しました。
AYOに参加した音楽家は、NHK交響楽団、東京都交響楽団、東京フィル、台湾国立交響楽団、香港フィル、バンコク響、北京国家芸術オケ、マカオオーケストラ、タイ国立響、マレーシアフィル、ベトナム国立響、シンガポール響おみならず、ニューヨークフィル、メトロポリタンオペラ、サンフランシスコ響、カタールフィル、ワイマール国立歌劇場など様々なオーケストラで活躍しています。
音楽を志すアジアの音楽家たちがアジアにおいて自分たちで音楽を作り上げ、有名アーティストとによる指導や共演、そしてツアーを経験することによって優秀な才能が育まれ成長していくことをAYOの目的でもあります。
オーディションはいつ行われるのか
毎年1月から3月にかけて音楽監督自らアジア各国を周り直接審査、もしくは動画による審査を経て決まります。
日本は例年なら3月中旬で大阪・東京とオーディションがあります。
動画審査に関しては、優先的に直接の審査を受けた人の中から選ばれ、その後動画を審査するので特別な事情なない限りは実地オーディションを受けることをお勧めします。
スケール課題、ソロ課題(受験者自ら選択)、そしてオーケストラスタディ(2019年に行われたオーディション課題はこちら)を演奏します。
その他オーディションの詳細はこちらをご覧ください。
6週間、一夏を同世代とともに過ごし音楽づくし
3週間のリハーサルキャンプ
3週間香港に滞在し、音楽院にて午前、午後に別れ、講師陣による各楽器ごとのレッスンやセクションごとのリハーサル、そして全体オーケストラのリハーサルが行われます。
(例年香港にてリハーサルキャンプですが、今年2023年はイタリア・ベルガモにてリハーサルキャンプが開催されています)
3週間の間講師陣がみっちりとレッスンをしてくれるので本場の演奏を間近で体験出来るのも魅力的ですが、オーケストラリハーサルの間も客席で聴いていてくれるので、その場でコメントをもらえたり、セクションレッスンだけでなく、オケの中での演奏方法なども教わることが出来ます。
基本講師陣は、夏休みの休暇を使って来ているのでシーズンが始まる8月半ばには仕事に戻るためリハーサルキャンプが終わると帰るのですが、先生のスケジュール次第では演奏会ツアーも一緒に行動してくれる時もあります。
私が参加した2010年はアメリカ・ボルティアモア交響楽団トロンボーン奏者だったジェームズ・オーリン先生と最後まで一緒に行動することができ、演奏会のアドバイスなどももらえたのは貴重な経験でした。
リハーサルキャンプ中のアドバイスもとてもためになりますが、実際の演奏会で緊張している中での演奏を講評してもらえるのもまた貴重。
3週間のリハーサルキャンプの宿泊は、決められたホテルでメンバーと共同生活を送り、ご飯はホテルの朝食が毎回あり、昼夜に関してはオーケストラから食事代として支給金がもらえるので各自好きなように行動して食べることも出来ます。
すでに参加経験のあるメンバーに聞けば、香港で美味しい店やおすすめスポットを教えてくれるので毎日違う場所へ行くのも面白いでしょう。
もちろん、リハーサルキャンプ中はリハーサルなどが無い休みの日もあり、メンバーは自由に行動することができ、香港島を観光するのもよし、少し遠出をしマカオや香港ディズニーランドへ行くのも良い思い出になります。
リハーサルは全て英語
講師陣との会話はもちろん英語ですが、アジア各国から集まってくるので共通言語はもちろん英語です。
英語が苦手な人もメンバーは優しいので積極的に話しかけて仲良くなってみましょう。
英語でのリハーサルは慣れてないと始め困るのは、「何番の何小節前」を英語では「3 Bars Before A」と初めに小節を言ってからどこの場所の前なのかをいうこと でカルチャーショックでした。
3週間に及ぶ演奏ツアー
3週間に及ぶリハーサルキャンプが終わるといよいよ演奏ツアーの始まりです。
毎年演奏する場所は変わりますが、基本中国・香港・日本などアジアを回り、○周年記念ツアーでは、アメリカ・ヨーロッパなども回るワールドツアーも行っています。
日本では東京オペラシティ大ホール、京都コンサートホールなど有名なホールでの演奏会はもちろん、地方でもホームステイをしながら地元のホールで演奏する取り組んでいます。
演奏ツアー中の移動は、基本飛行機やバスです。
スポンサーにキャセイパシフィックがついているので毎回キャセイパシフィックの飛行機で移動ができます。
もちろん、移動費は全部ただ!
大型楽器の方は注意したいのが大型楽器じゃ機内持ち込みができないので預け荷物扱い、毎回梱包したりと面倒なのでツアー中は荷造りが大変でした。
演奏ツアー中の宿泊場所は、ヒルトンホテル(スポンサー)だったり、星5のホテルだったりと、とても良いホテルに滞在できるのもこのツアーの特徴、朝ごはんもホテルの朝食がついています。
国内移動などはバスでの移動が多いので、遠征場所によれば演奏会前に移動、演奏会後移動という過酷なスケジュールになったりもするので意外とハードです。
最初と最後に必ずエルガー作曲のニムロッドを演奏
アジアユースオーケストラでは様々なプログラムを演奏しますが、必ず最初の香港での開会式的な催しでスポンサーやお偉いさんが参加する中でエルガー作曲のエニグマよりニムロッドを演奏します。
リハーサルキャンプが始まるとすぐなので毎年メンバーが変わるAYOにおいて人前で始めて一緒に演奏する曲となっています。
その後ニムロッドは、リハーサルキャンプ中や演奏ツアー中一切演奏しません。
2度目は、演奏ツアーの一番最後の演奏会の時にこの曲をもう一度演奏します。
始めて演奏した時は、まだ集まったばかりでお互いのことや演奏など全然知っていない状態で始まり、6週間毎日生活・演奏したあとのニムロッドは別のオーケストラのようなサウンドに変わっています。
とても美しいハーモニーなニムロッド。
1回目はこれから楽しんでいこう、頑張っていこうという若さあふれる元気のある演奏だったのが最後の演奏では6週間ともにした仲間とお別れになり、演奏会の次の日にはそれぞれ帰路へと着く、短くて長かったツアーが終わる、各自様々な思いの中の演奏は豊かなサウンドに悲しみや色々な思考は入り混じった演奏変わります。
そんな様々な思いの詰まったニムロッドは、AYOにとってなくてはならないかけがいのない曲になっています。
人生の中でも1、2位を争う素晴らしい思い出
海外留学を強く思うようになったきっかけ
このAYO参加というのは私にとってかけがえのない経験の一つで、今の自分を作り出している点でもあります。
AYOとの出会いは、今から約13年前。
海外には昔から興味があり、ドイツ留学を少しは考えていたもののまだ先のことと思っていた大学3年生の時、たまたま大学の掲示板に貼ってあったアジアユースオーケストラのオーディション情報を目にして、プログラムもとても魅力的で参加してみたいと思ったのが始まりです。
(今考えるととてつもないプログラムですが、マーラー交響曲五番、ハイドン・チェロコンチェルトのAプログラムと組曲「薔薇の騎士」・ドンファン・ドンキホーテというオールR.シュトラウスというBプログラム)
幸運にも大阪音大チューバ講師にAYOの参加された方がおられたので、どうような体験をしたのか色々話を行くことも出来、さらに興味をもちオーディションに参加しました。
今でもオーディションの演奏直後にパンチャスから言われた言葉や合格のメール、そして香港の辿り着いた時のことを鮮明に覚えています。
英語はそこまで得意ではなく、日本人メンバーに助けられながら、優しいアジアの友達とともに素晴らしい6週間を過ごすことができたので語学に自信のない方でも大丈夫です。
ドイツ留学を漠然と考えていた自分がこのツアーで留学を明確にしたい!と思うようになったのも大きな収穫でした。
メンバーの中には、すでにアメリカ・ドイツなどに留学していたり、これから留学するんだ!とすでに計画している同世代メンバーがたくさんおり、意識が高いと言ったら語弊があるかもしれませんが、皆音楽に対しての情熱がすごかったのです。
17歳から29歳まで幅広い音楽家が参加していたので学生のみならず、すでに職業音楽家として働いている方もおり、日本にいて大学だけでは学べないこともたくさん経験でき、その中で感じたのは、「日本に立ち止まっていてはいけない、一歩踏み出さないと」と思うようになったのです。
僕が参加した時のローブラスは、ドイツ・ドイツ・フランス・ロシア・ドイツと全員が留学しています。
他の年はどうかわかりませんが2010年は留学組が多く、弦楽器も留学をしている人は多いですが、特に管楽器が多く、8割(!!)海外留学経験をしており、今でもヨーロッパで時間があれば会い交流を深めています。
友人たちはフランス・トュールーズ響、パリオペラ座、ミュンヘン放送響、ニュルンベルガー響、上海フィル、台湾国立響、マレーシアフィル、香港フィルなどに就職し活躍しているので刺激になっています。
参加できた2010年は創立から20周年だったため20周年記念演奏会も開催され、世界中からAYOの卒業生たちが再び香港に集まり、幻想交響曲を香港版日本武道館みたいな場所で1000人以上を超えるメンバーで演奏できたのもよい思い出です。
メンバーはアジア各国で活躍しているプロたちが多いのでこの出会いにもとても感謝でした。
毎日オーケストラで吹ける喜び
毎日8時には会場へ行き、音出しをし、9時からセクションでのレッスン。
オーリン先生はお手製の教本を毎年生徒に配り、全員で一緒に音出しをしたり、セクションでオーケストラスタディをします。
内容は、基礎練習でジェイコブス・スタンプ・チコヴィッツなどザ・アメリカンな教本でそれがまたハードな内容で、オケスタではセクションでの吹き方を教え込まれました。
午前中3時間のセクションでのレッスンなどが終わるともうヘトヘトですが、お昼休憩を挟んだ後は今度はオーケストラリハーサルです。(シューマン・チェロコンチェルトはチューバがないので降り番ですがそれ以外は乗り番。)
演奏ツアーが近づく頃には午前中もオーケストラリハーサルになので1日中オーケストラざんまいでした。
でも、毎日こんな生活をしているとさすがに疲れてくるので休みには友達と香港観光したり、美味しいものを食べに行ったり、深夜遅くまでパーティーをして寝て次の日からまたリハーサルざんまいという日々。
講師陣が実際オケの中で一緒に演奏してくれたり、ソリスト(2010年ソリストはワン・ジャンやアルバン・ゲルハルト)がソロが終わると一緒に後半プログラムを舞台で一緒に演奏したりなどなかなか貴重な体験が出来ました。
参加して損はない体験
日本の夏休みというと学生は、学業で忙しかったゼメスターが終わりどうしても遊びたくなります。
管楽器の人たちは、吹奏楽の指導で忙しい夏を送るかもしれませんし、有名なコンクールに取り組んでいる人もいるかもしれません
まとまった時間を作れる夏に若いうちにたくさんの経験をすることはとても大切で、日本という小さい世界だけでなく、アジア・世界という大きい世界を見るというのも音楽家として人としても新たな世界を知ることがができるのです。
ヨーロッパでは、こういった音楽を勉強している音楽家がオーディションによって選ばれ研鑽を積むプログラムが多数存在し、シュレースヴィヒホルシュタイン音楽祭アカデミー、マーラーユーゲントオケ、ヴェルヴィエ音楽祭、ルツェルン音楽祭アカデミー(他にもありますが割愛)などが有名でヨーロッパの学生たちが著名な指揮者やソリスト、講師陣と暑い夏を過ごしていますが、日本ではアジアユースオーケストラを知っている人はそこまで多くはないと思います。
特におすすめしたいのが現在学生の方。
大学を卒業してフリーランスとして活動したり、オケに合格し働いていると長い期間自由に出来るというのはなかなか難しく制約されますので、比較的時間の作りやすい学生のうちに経験してもらいたいです。
もちろん、フリーランスとして活動をされている方もぜひ挑戦していただきたいです!
PMF、小澤征爾音楽塾、そしてアジアユースオーケストラ、アジアにも素晴らしい経験の出来るプログラムがあるのでぜひ挑戦してみてください。
それでは、Tschüß!!